現在日本は世界一の長寿国となり、その平均寿命は80歳を超えています。医療全体の技術の向上や生活環境の改善により「人生50年」といわれていた時代から「人生80年」の時代となりました。しかし平均寿命が30年も延びた今でさえ、日本社会の歯科医療に対する認識は先述の通り・・・歯科医療に対する誤認識を拭い去れないのが現状です。
まずは表Aをご覧ください。80歳の日本人が持つ、使える自分の歯はおよそ6本。それに対し、スウェーデン、フィンランドでは23本も残っています。
次に、表Bのスウェーデンと日本における20歳成人の永久歯う蝕(虫歯)数をご覧ください。1985年には日本でもスウェーデンでもほぼ同じ虫歯の数なのに対し、それ以降スウェーデンでは急激に虫歯の数が減っています。ところが、日本における虫歯の数は年代を経てもほとんど変化がありせん。調査を開始した1985年には(両者の間に)ほとんど差の無い状態からも、このような結果が人種的な差異に起因する訳でないことは明らかです。


従来の日本における虫歯予防は1.砂糖制限、2.ブラッシング励行、3.早期発見、早期治療と思われてきました。しかし、国別一人当たり年間ショ糖消費量日本における砂糖の消費量は他国よりも圧倒的に少なく、更にほとんどの方が1日に2回以上歯磨きをしているのです。



加えて歯科医師の数も爆発的に増加し、早期発見・早期治療がなされてきました。つまり、虫歯予防の1、2、3、全てのスローガン的項目が満たされてきたことになります。ところが、「歯科医師数と一人平均健康な歯の数の推移」のグラフからもわかるように、健康な歯の数は年を追う毎に減少しています。
これは「早期発見、早期治療」という、修理に次ぐ修理(削る→詰める→削る→抜く)が招いた結果だと考えられます。詰め物をされた歯は、完全に治った訳ではありません。どんなに上手に修理をしてもこれは一時的な補修であり、自分の歯と詰め物の間に生じる小さな隙間からの虫歯菌の進入を完全に防ぐことは出来ないのです。 最初は小さかった虫歯が、再治療の度にその傷口を広げ、丈夫だった歯も次第にもろく弱くなっていきます。結果、最終手段としての「抜歯」へとたどり着くわけです。「人生80年」となって久しい今日、再治療に次ぐ再治療で いずれ抜歯となるならば、初めに削る治療は少しでも先送りすることが何よりも大切です。